takamin55's blog

『妄想代理人』を読んだ感想

『妄想代理人』というアニメを見た。好きなタイプのアニメで観れて幸せだったので感想を書く。

自分の好きなタイプのアニメとは、陰鬱な世界観であり、精神的な苦悩(葛藤, 孤独, 欲望, 絶望など)が描かれていて、絵や音楽などの表現に特徴があるようなアニメだ(これは最近ようやく言葉にできた)。

例を挙げると、『serial experiments lain』『ダンガンロンパ』『電脳コイル』『Zガンダム』『Another』『魔法少女まどか☆マギカ』『エヴァンゲリオン』『Hellsing』などだ。ジャンルで並べるとサイコホラー、ダークファンタジー、鬱アニメ、ミステリーなどになるらしい。グロは苦手だ。

このブログでは、まずネタバレにならない感想を書き、その後にネタバレを含む感想を書いていく。まだ見ていない方は途中で切り上げるのが吉だ

『妄想代理人』の情報・あらすじ

簡単に基本情報を簡単に書いておく。

2004 年に放送されたアニメで、話数は 13 話。制作はマッドハウス。監督は今敏で音楽は平沢進だ。今敏は映画『パプリカ』の監督で、こちらのほうが有名だと思う。

ストーリーは、公式 HP が無く動画サイトによって紹介文章が異なるので、頑張って自分なりにまとめてみる。

可愛らしいマスコットキャラクター、マロミのデザイナーである月子は仕事帰りに通り魔に襲われてしまう。月子によると通り魔は少年のような姿で、ローラーシューズを履き手にバットを持っていたという。警察の捜査もむなしくその後もこの通り魔による襲撃は絶えない。通り魔はいつしか ”少年バット” と呼ばれ、世間の関心を集めていく。少年バットは何者なのか。その目的はいったい何なのか。

うまく書けただろうか…。なお結局 Abema や d アニメストアのあらすじを参考にしている。ちなみにマロミとはこれである。作中では大ヒットキャラで、いろんな人から大変愛されている。

maromi

『妄想代理人』を観た感想

3話まで観てほしい!

2025 年になったばかりだが、最近はエンタメコンテンツが溢れているので 1 話に力を入れてグッと視聴者を引き込むのが主流らしい。

だが妄想代理人はぜひ 3 話まで見てほしい。1 話でも十分引き込まれるのだが、3 話がとても良いタイミングなのだ。というのは 1 話 2 話と見てきたことで謎めいた “少年バット” の正体やその行動理念に気づき始める頃合いで、ストーリー進行も彼の正体を明らかにしていく方向性であるため、その正体に近づける 3 話はこれから一気に面白くなる段階なのだ。

またシンプルに 3 話が面白い。3 話は蝶野 晴海という女性(声優はのび太ママ)が出てくるのだが、彼女を取り巻く苦悩の演出が緊張感と恐怖に溢れていてとても良いのだ。

もう言っちゃうか。冒頭ですぐ分かるが晴海は多重人格に悩まされている。最初はもう1人の自分をそれなりにコントロールできているものの段々とコントロールできなくなっていのだが、そのできなくなっていく演出が恐ろしくて引き込まれるのだ。下は多重人格に苦しむ晴海のワンシーン。

harumi

しかも晴海が幸せな日々を送り始めるにつれてコントロールできない度合いも増していく、つまり乖離が大きく大きくなっていくので、その対比がさらに緊張感をもたらしている。これも良い。のび太ママ(すみません三石琴乃さんのこと。のび太ママ以外にもたくさん出演されている。)の演技も圧巻だ。

描かれる悩みに共感できる

先ほどの蝶野晴海は多重人格に苦しんでいた。他にも、例えばマロミを生み出した月子はスケジュールに追われていたり同僚に嫉妬されたりしているし、少年バットを追う警察も苦労していそうだ。みな何かしらの悩みを抱えていて一筋縄では行かない様子が描かれている。

こういった登場人物の複雑な悩みや苦しみが、社会人ならどこか共感できるものがあると思う。みな大変なのだ。なんでこんなに大変なんだろうねぇ。

そうすると少年バットは無邪気に見えてくるが、そう見えてしまうと言うことは私もあなたも悩んでいるのかもしれない。

ただ大人に限らず、登場する老若男女はみなどこかしら悩んでいそうなので、単に大人の世界の大変さ、と捉えてはいけないと思う。

制作秘話が面白い

今回始めて制作秘話を読んでみたがこれもまた面白かった。今敏の独り言という形式で公開されている。リンクはこれだ。

https://konstone.s-kon.net/modules/moso/index.php?content_id=1

制作秘話には製作会社のノリや、各カットの表現技法の意味、キャラクターについて、今敏の価値観など、面白い話がたくさん書かれている。中でも自分はアニメが形になっていく流れと、アニメ中の表現技法の話、今敏の仕事観に興味を抱いた。

アニメが形になるまで

制作の流れと言っても細かいプロセスのことではないのであしからず。

ブログの中で、アニメのコンセプトを決めていく流れがあった。コンセプトの登場時点ではこの時点では全13話の細かいストーリーはもちろん、登場人物も決まっていなさそうだった。おそらく『妄想代理人』というタイトルも決まっていないのではないかと思う。

オリジナルアニメってコンセプトから始まるのだなぁと分かり、興味を満たしてくれた。ストーリーがパッと頭に思いつくわけじゃなかったのだ。コンセプトを話し合い、そこから仮ストーリーを作っていくのだ。

また、登場人物の生まれ方も面白かった。例えば月子は襲われるので、月子から事情を聞き出そうとするジャーナリストのような人物が必要になる。その人物である川津はメディアの図々しさを意識して嫌らしい感じ、目をギョロっとさせた感じにしようと決まっていく。他のキャラクターもペルソナというべきものが定められていき、あぁ、キャラクターもその意味が計算されて作られていくのだなぁと分かる。

こういった、アニメがアニメになっていく過程を知れるのがとても面白かった。

アニメ中の表現技法

アニメ中の表現に関するお話も面白かった。今までそういった表現に注目してアニメを鑑賞したことはなかったからだ。今敏の独り言からこうした表現技法を知ったことで、アニメの楽しみが増えたと思う。

例えば月子は無口で感情を直接的に表現するキャラクターではないので、そのイライラを Delete キーを叩く間隔の短さなどで表現したり、月子が川津に通り魔について根掘り葉掘り聞かれ焦燥しているシーンでは月子に汗をかかせるのではなく、飲み物のガラスについた水滴をたらりと垂らすことで間接的に表現したりなどが説明されていた。

他にもたくさんある。最初に読んでしまうとネタバレになるが、一度見たあとにこのブログを読み、それからもう一度アニメを見ると更に楽しめると思う。

今敏の仕事観

ブログには今敏の仕事に対する思いが書かれている。彼はインフルで2, 3日休む以外はずっと仕事に打ち込んでいるようだった。そして仕事を中途半端にするやつをとても嫌っていた。清々しいほど嫌っていた。

「一所懸命働くのはイヤだが、立場と評価は欲しい」

なんて図々しいんだ(笑)

近頃はもっと低いレベルになっているかもしれない。

「そこそこのポジションでいいから自分の居場所が欲しい」

そういう生き方もあるだろうが、私はこういう人とは仕事を一緒にしたくないとは思う。

また今敏は仕事を仕事と思っていないようだった。好きだからずっとやっている。よく言われるが、頑張る人はそれが好きでついやってしまう人には逆立ちしても叶わないのだ。。

ほかにも、記号(一般的な合意を取れている何かの表現)をすぐ使う態度を嫌う言葉がいくつか感じ取れた。記号とは例えば、驚いたシーンで2度見をする描写や、おでんを○△□と表現することのどの、お約束のことを指す。せっかく頭があるのになぜ考えずにすぐ記号・テンプレートを組み合わせようとするのか、と嘆いていた。自分も記憶ゲーに持ち込まないように注意したい。

こういった今敏の仕事観を知ることができるのも面白みだった。

中締め

もっと書きたい感想はあるがネタバレになる。なのでここで「中締め」とする。

妄想代理人はミステリー要素もホラー要素もサイコ要素もあるアニメで、人間社会の闇に焦点を当てる考えさせられるアニメだったと思う。

こういったダークな世界観が好きな方はぜひ見てほしい。

ネタバレ枠

此処から先はネタバレ枠だ。何も臆さずどんどん書いていくぞ。

社会の闇が深すぎる

各話を通していろいろな社会問題が描かれている。

1話: ストレス過多な社会。社会への不満。人間関係の辛さやプレッシャーなど。

2話: 子どものいじめ問題

3話: 性産業の問題

4話: 警察の汚職

5話: 現実とゲームの区別がつかない子ども

6話: 性的虐待

7話: 冤罪(冤罪でもないけど)

8,9,10話: サイドストーリーだが自殺、受験戦争、ママ友いじめ、製作会社の労働環境など

11話: 夫婦の問題。中年の危機?

12話: 現実逃避。責任からの逃げ

13話: 決して終わりのない社会問題

アニメを通してこれらの問題を提起する!!のような態度ではないと思うが、この社会の一面を描いているのは事実である。我々も真実から目を背けてオープニングのように脳死で笑い、少年バットを望んではないだろうか。

衝撃の第 6 話

6話は妙子(たえこ)の回だ。一番ショックが大きい回で、記憶に鮮明に残った。

妙子はとても健気な少女だ。高校生くらいだと思う(なお声優は水樹奈々だ)。明るい性格で小さい頃から父親が大好きな女の子であり、父は貧乏な家に対して引け目を感じているが妙子は気にしたそぶりも見せない。

ある日、妙子は新築の家に引っ越すことができた。妙子は前の家でも十分に幸せだったが、このために頑張ってくれた父に感謝の気持ちを伝えるべく、父の PC の壁紙に自分が作った誕生日メッセージを設定し、サプライズで喜ばせようと準備する。

しかし父の PC であるものを見つけてしまう。それは、妙子の部屋に仕掛けられたカメラによる盗撮写真で、自分の下着姿や裸などがはっきりと捉えられていた。

taeko-camera

妙子はひどくショックを受け、自殺を試みる。最終的に思いとどまるものの、少年バットによる襲撃に遭ってしまい、病室で目覚めると記憶喪失となってしまう。ベッドから起き上がり、目の前の父親に「どなたですか?」と尋ね、エンディングに入る。

マイホームでピンときたかもしれないが、妙子父はあの警官である。警官ながらヤクザに情報を売り金を稼ぎ、その金で風俗などの夜遊びをし、足りぬ金を埋めるためにひったくりも止められなくなってしまうあの “4話: 男道” の警官である。

もともと救えない人物だったが、6話で彼は完全に理解できる線を超えた存在になったと感じた。自分の想像力ではもうこの父親を捉えきれないのである。頭が彼を怪物として扱うようになり、理解を拒み始めた。嫌悪感を体現した存在としか見えなくなってしまった。それくらい自分にとって衝撃だったのだろう。というこの感想はブログに載せるために文字で表そうとして、当時どう感じたかを振り返ってみると分かったことであり、感想を書くのは面白いなと感じた。

taeko

「あの、どなたですか?」

少年バット・マロミに依存する人々

人はみな逃げたくなるような事情を抱えている。そこで少年バットに襲われると “被害者” になり、一時的に逃避ができるほか同情も買える。それゆえ人々は少年バットを求めるようになっていく。

またマロミも、癒やしをもたらし嫌なことを忘れられる存在として、社会全体で大ブームが巻き起こる。

人々が狂ったように少年バットとマロミを求め始め、手に入らないと暴動を起こす様子は、手を出してはいけないドラッグに浸ってしまった中毒者のようで不気味だった。見ていられない。

しかし自分も責任から都合よく逃れようとしていないだろうか。身をつまされる描写だった。

そして相変わらずジャーナリストはマロミの暴動について見当違いのことを言っており風刺されている。「マロミは危険です!」。いや、そうじゃない。

もっとアニメを楽しめるように

今までアニメは、ストーリーが面白かったか、好きなキャラはいたか、どこかに記憶が残るシーンがあったかどうか、などを意識していたが、妄想代理人の視聴を通してもっとアニメを鑑賞したいなという気持ちが湧いてきた。

ワンカットワンカットに意味が込められている。描写に限らず物の配置やキャラの配置といった構図だけでもいくらでも考える部分があることだろう。

そういったアニメの細かい作り込みを楽しんでいきたいなと思った。

終わりに

まだまだ感想はあるが終わらなくなってしまう。

妄想代理人は考察要素が多いために色々調べることがあったのが幸いし、調べているうちにアニメの深い世界に 1 歩だけ踏み込むことができた。

これからのアニメ鑑賞がもっと楽しくなりそうだ。出会えてよかった。